終戦のローレライ

終戦のローレライ(4) (講談社文庫)

終戦のローレライ(4) (講談社文庫)

終戦のローレライ(1) (講談社文庫) 終戦のローレライ(2) (講談社文庫) 終戦のローレライ(3) (講談社文庫) 終戦のローレライ(4) (講談社文庫)
いやいやいやいや。傑作でした。
福井晴敏のねっとりと細かく描かれた人物達が、第二次大戦末期の日本という舞台で迷い、惑い、翻弄され、それでも自分の信ずる信念に従って行動していくのが素晴しかったですね。いつも通り「熱い」福井節なんだけど、今回は微妙に甘いとこもあったりして他の作品よりもバランスよく仕上がってるんじゃないでしょうか。パウラを出したのは小説的にも正解か。
映画では間抜けにもほどがある死に方をした清永や、意味不明の狂人にしか見えなかった浅倉や、節操がなさすぎる田口も、これでようやく浮かばれることでしょう。まー浅倉はやっぱり普通じゃないけど。
しかしなー、映画の中であんなうわっつらだけ舐めたセリフ吐かしちゃだめでしょう。いいのかなー。文庫にして4冊という長さを読んだ後ならそのセリフが出てくる背景も理解できるけど。
例によって、原作*1のメッセージ性をまるきし無視してイベントを尺に納まるように映画化しただけに思える。テーマ無し、メッセージ無し、問題提起無しで派手さだけを楽しむ家族向け映画なら間違ってない作り方だとは思うけど、いいのか?福井晴敏。本当にそれでよかったのか?福井晴敏。脚本作りから参加していたにしては、あまりに真逆の作品にしあがりすぎてませんか?結局、映画版ローレライは、作中で浅倉が予言してみせた「未来の駄目駄目な日本国民」のための映画になっちゃってる。
能天気な映画を餌に重い小説版を炸裂させるという合わせ技一本を狙ってたのなら、まぁ、納得なんだけど。映画が話題になることで、小説を手にとる人の数も増えただろうからな。これ以上ないタイミングで文庫化もされたわけだし。
そうか。映画は明るい娯楽作品にしたてておいて、興味を持つ人の数を増やしておいたところで、映画じゃ満足できない人には小説(文庫)をさしだして満足させる、と。考えてみると、これはなかなか良い戦略ですね。なるほど。うん、そういうことで納得しておこう。


というわけで、映画版をみて「なんじゃこりゃー」と憤慨した人は小説を読みましょう。

*1:この映画では福井晴敏の描きたかったもの