サマータイムマシン・ブルース (後半ネタバレ注意)

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みてきました。おもしろい!おもしろいよ、これ!。今年見た映画の中で一番よかったかもしれない。もともとなんかの映画を見たときに、おもしろそうな雰囲気をかもしだしてた予告編が気にかかっていたので見てみたんだけど、予想以上のおもしろさ。これは大当たりでした。
内容は、田舎の大学のサークル「SF研究会」の面々が、夏の暑い日に本物のタイムマシンを手にいれたことからはじまる、スケールのちっちゃい超B級ドタバタコメディ。サークルメンバどおしの掛け合いも抜群におもしろいし、シーンの運びもテンポがいい。おもしろおかしい掛け合いを眺めている内に事態もちゃんと進行していって、けっこう爽やかなラストに着地する。時間があっという間でした。
そして、表面のドタバタだけの映画かと思いきや、タイムトラベル関連のつじつまもちゃんと合わせられている。なにより、前半ではりめぐらされた伏線が後半漏れなくきっちり拾われていくのは見事としかいいようがありません。脚本が素晴しい。見てるときは、すーっと流しちゃう箇所も、後でいろいろ考えてみるとかなりよく設定が練りこまれている。タイムトラベルネタを、テンポのいいドタバタに折りこむ工夫が随所に見られます。完璧だ。
よくできた脚本だなあ、と思っていたら、元々「ヨーロッパ企画」という小劇団の舞台劇だったようだ。脚本家は若干25歳、「理系三谷幸喜」と呼ばれているその筋では有名な上田誠という人らしい。なるほどー。え、でも舞台であの「過去」と「未来」の一人一役をどうやってるんだろう。気になる。舞台も見たい。
まあ、映像が綺麗とか迫力がある、とかには無縁の映画なので、スクリーンで見る価値があるかどうかは微妙だけど、おもしろいことは間違いない。超お勧め。
以下、タイムトラベル関連の作りこみで、お、ちゃんとわかってるな、すごいな、と思ったところを列挙。おもいっきりネタバレなので、未見の方は見ては駄目です。



タイムパラドックスを起こさないのが目的

バックトゥザフューチャーみたいに、独自の解釈でタイムパラドックスで未来や現在を改変する映画はよくあるけど、この映画だと逆にタイムパラドックスを起こさないように全てをもとどおりに戻すことが目的になっている。これが上手い。
タイムパラドックスを利用して事実を改変するという話だと、やっぱりパラドックスを解釈せざるを得なくて、その解釈が納得できないとちょっと不満が残る。この映画だと「結局なにも変わらない」ことを目指してその通りに終わるので、パラドックスの出てくる隙がない。

タイムマシンには年と日付の目盛りしかない

タイムマシンで移動するとき、日や年は変更できるけど、移動先の時間は変更できない。例えば、12時から出発したら、前日や前年に戻ったとしても出現するのは同じ12時。5分前とか10分前とかに戻れない。そこまで細かく制御できると、タイムトラベルものでよくある「トラベラーが出発した直後に戻ることで、送り出した側の時間は進まずにすむことになる」という状況が起こりうるが、この作中ではそれができない。そのおかげで、送り出した側も「あいつらおっそいなー」とかいいながら現代に戻ってくるのを待ってるのが不自然ではなかったり、過去と未来がパラレルで進行するシーンが(時間が同期しているので)自然に作れる。

田村が未来へ戻ったときに未来のサークルメンバがきちんと準備して待っている

これもポイント高い。まあ、タイムトラベルものの基本ともいえる風景だけども、未来にタイムトラベルした時、未来の時点ではその時点にタイムトラベルしてくることはわかっているので、ちゃんと準備ができている、と。

甲本が録音した留守電

見ていて一番驚いたのは、「甲本が録音した留守電」が伏線としてちゃんと拾われていたこと。甲本と後輩が過去にいった上で、甲本が後輩に携帯で電話をかけている。「現在」と「過去」の後輩が二人いる可能性があるので、携帯で電話したシーンを見たときには、「かけた先の二人が同時に存在してたらどっちにかかるのかなあ」とかややこしいことを考えたのだけど、同時にまあこの程度は流してもいいか、と感じてスルーしてた。
実は、その時点では「現在」の後輩はえらい過去にすっとばされていたので、「過去」の後輩の携帯に留守電がちゃんと繋がっていて…、というふうに、後できちんと伏線に使われていたのが驚き。あんな細かいのまでちゃんと拾って、その後の展開に使っちゃいますか。

そして時の輪が閉じる

映画ではちゃんと描かれていないけれど、もし、田村がカメラ部の女性(名前でてきた?)のいうとおり、「出発の前日に戻って、出発時点まで隠れている」という行動をとった場合、どうなるだろうか?。田村は出発の前日に戻り、タイムマシンはサークルの部室に戻し、そしてどこかで隠れていたら?。
ここで、最初田村がなんといったか思いだしてみよう。田村はこういっている「朝、部室にきたらタイムマシンがおいてあった」、と。そう、田村がこの通りに行動した場合、一番最初に未来のサークルに発見されるタイムマシンというのは、ここで田村が帰るために使ったタイムマシンの「続き」なのである。ここでタイムマシンの「行動」は綺麗にループとして繋がり、そして閉じられる。結局、タイムマシンが時間軸の中をぐるぐる回っているだけで、誰が作ったのか、そもそもどこから来たのか、それは(自然に)謎のまま残る。タイムトラベルものとしては綺麗なまとめ方じゃありませんかー。


あと甲本くんのラストのセリフも最高。決められた制限の中で、それでも自分の道を切り開こうという思いで映画が終わる。ああ、おもしろかったー。