クロノス・ジョウンターの伝説

クロノス・ジョウンターの伝説 (ソノラマ文庫)

クロノス・ジョウンターの伝説 (ソノラマ文庫)

おもしろかったー。

クロノス・ジョウンターというタイムマシンを使って時間旅行をする人達の中篇集。このタイムマシン、ドラえもんのタイムマシンのように自由自在に使えるものではなく、いろんなキツイ制約がある*1のだが、それだけにお話の緊張感は抜群です。そして、緊張感の上にすごく甘いラブストーリーのシロップが品よくまぶされていて、素朴ながらも上手な語り口でほろりとさせられました。人の悪さを無くした星新一が、精魂こめてハッピーエンドの物語を書いたかのようです。いや、それでいておもしろいところが凄いんだけども。

中でも、最後に収録されている「鈴谷樹里の軌跡」が白眉。
たったの1行。作中のたったの1行の「告白」を読んだ瞬間、それまでしっとりとしきつめられてきた情景が全て浮びあがってきて、強烈な思いに包まれました。これほどの思いを1行に込められるとは。しかもこれが綺麗なんだ。こんな凄い、こんな美しい1行はいまだかつて読んだことがない。素晴しすぎる。もうこの世のものとは思えません。もう少しちゃんと説明したいものの、ネタバレを恐れているので抽象的でごめんなさい。
いやまあ、これは壷にはまりすぎた人の感想だけど、綺麗な瞬間が見事に描写されているのは間違いありません。すごいなあ。

全編をふりかえってみると、やっぱり根本はファンタジーで運命的な出会いが連発されているあたり、いろいろ甘いお話なのだけど、それでもなお、これは大傑作ですよ。「黄泉がえり」とかも読も。

あ、これを原作に映画ができるんですね(タイトル:この胸いっぱいの愛を)。どうりで平積みされてたわけだ。んーでも「大胆に脚色」とか書いてあるなあ。タイトルもベタベタになってるしなあ。大丈夫なのかなあ。この人の「ほろり」とくる部分は、それとなーくそれとなーく文章に埋められてるところだと思うので、普通にわかりやすく作られちゃったら台無しになるような…。「黄泉がえり」の本読んでから映画も見ておくか。心の準備のために。

*1:行った過去に数分しか留まれないとか、過去から戻ってくると出発地点より未来にとばされてしまうとか、繰り返し使えないとか