デルフィニア戦記

いま頃、こんなものを読んでいます。

放浪の戦士〈1〉―デルフィニア戦記 第1部 (中公文庫)

放浪の戦士〈1〉―デルフィニア戦記 第1部 (中公文庫)

存在はかなり前から知ってはいたんだけど、ファンタジーものは微妙に守備範囲からずれるので手をだしてなかった。なんだか文庫で10冊以上あるみたいだし。でも、これはすごい。一冊目の60ページくらいしか読んでないけど、傑作の香りがする。

おはなしは、王やら騎士やら中世ヨーロッパを思わせる国々が舞台のファンタジーもの。主人公は、それなりに強い騎士の若者と、人間とは思えない身体能力*1をみせる少女の二人*2。若者は、やんごとなき身分のようだけどなんだか追われる羽目になっていて、少女はどこか違う世界から来たらしい上に「さっきまでは男だったのに魔法で女にされたようだ」という設定。この二人が旅をすることになるんでしょう。多分。オーソドックスなんだか違うんだかよくわからない。

まず良いのはシンプルでかつ迫力のある文章。本屋で冒頭をパラパラっと見てみたら、いきなりのちゃんばらシーン。でも文章は平易な言葉で書いてあってわかりやすい上に、迫力もちゃんと感じられる。「これはけっこういけるんじゃないの?」と思ったので、とりあえず一冊だけ購入決定。

ところが、この本がすごいのは文章のうまさだけじゃなかった。構成も素晴しい。上にも書いたように、この話は、よくある剣のファンタジー世界の上に、その世界の住人ではない人間以上の能力を持つ少女(でも中身は男)が主人公としてのっかっている。いわば、ファンタジーの中にまたファンタジーが埋めこまれているわけで、構成としてはやっこうややこしいし、こう書くと無茶苦茶な設定のお話にみえる。でもこの本では、主人公二人のパーソナリティを含めたこのややこしい構成を、冒頭の戦闘シーン、戦闘中での二人の出会い、そしてその後の二人のやりとり、という自然な流れの中でしっかりと説明してしまう。しかも、伏線を匂わせることも忘れない。入口がちゃんと作ってあるので、その向こう側に広がる世界への想像もかきたてられて非常におもしろい。

ここまででだいたい60ページ。ここまでを本屋の近くのお店で御飯食べながら読んで、「一冊だけで終わってしまっては、続きが気になって眠れない」と判断したので、本屋まで戻って第一部にあたる文庫4冊分をまるごと買ってきました。続きが楽しみ。

多分作者の人は、背景世界をきっちり作りあげた上に、どうすれば説明的な記述を一切やらないで、かつおもしろく読者が世界にはいっていけるかを考え抜いたんだろうなあ。これがデビュー作とはおそろしい。

*1:馬より速く走るとか

*2:まだあんまり読んでないので、もしかしたらもっと多いのかも