柏木誠治の生活

柏木誠治の生活 (新潮文庫)

柏木誠治の生活 (新潮文庫)

清水義範はおもしろいなあ。
45歳課長の柏木誠治の話。

柏木は新入社員との不倫に手を染めつつ、大口の取引先のキャンペーンを華々しく成功させ、社内のライバルを蹴ちらす派閥争いを繰り広げていくのだが…というような話、、
では全くなく、いたって平々凡々なサラリーマン柏木誠治の日常で起こる出来事を丹念に生々しく描いたお話。派手なことはいっさいなんにも起こらず、小説とは思えないほど些細な些細な出来事しか起こらない。
なんにも起こらないんだけどこれが面白い。清水義範の愛情こもった細かい描写を読んでいるうちに、柏木お父さんの生々しい日常がすっとしみこんできた。
考えてみりゃ日常的に起こるいろんな事、通勤の満員電車とか、同期入社のやつのほうが先に出世しちゃいそうとか、新入女子社員がほんのちょっとだけ気になるとか、部下がどうにも使えない、とかとかは、本人にとってみればどれもこれも大変な事なわけで、それをひとつずつ手をつけていく「頑張っているお父さん」にどっぷりと感情移入してしまいました。中年へのエールなんだろうなあこれは。

これは傑作だ。こんなのが絶版になってるなんて哀しい。